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刑事訴訟における調書の功罪とは?

 2010-11-22

Q.刑事訴訟における調書の功罪とは?


A.裁判の迅速化に資するというメリットがある。しかし,自白偏重につながるおそれがあり,強要による自白取得などの人権侵害や虚偽自白の誘発による冤罪の発生などの重大な弊害が生じる危険性もある。



調書


前回に引き続いて大阪地方検察庁特捜部の前田恒彦主任検事の証拠偽造問題を考えるために,刑事裁判の具体的な仕組みついての説明を続けていきます。


これまで説明してきたように,刑事訴訟においては,犯罪事実の立証責任は検察官に課されており,その事実は証拠によって認定しなければならないという証拠裁判主義がとられています。


したがって,被告人を有罪とするためには,検察官が,犯罪事実を主張し,その犯罪事実について証拠を集めなければなりません。


そして,その証拠として,実務上,もっともよく用いられるのが「調書」です。


調書とは,警察官や検察官が,被告人または関係者等を取り調べて,その人たちから聴取したことを書面化したものをいいます。


警察官が作成したものは「警察官調書」とか「司法警察員面前調書(員面調書)」とか呼ばれ,検察官が作成したものは「検察官調書」とは「検察官面前調書(検面調書)」とか呼ばれます。警察官調書はKS,検察官調書はPSなどと呼ばれるときもあります。


また,調書のうちでも,被告人本人が犯罪事実など自分に不利益な内容を自ら告白したものを記載した調書のことを「自白調書」といいます。



調書のメリット


調書は,取り調べた内容をまとめたものです。それだけに,内容が整理されているため,いざ裁判となった場合に,裁判所も内容をとらえやすく,裁判の迅速化につながることは間違いないでしょう。


迅速な裁判は憲法でも要請される重要な権利です。しかし,はっきり言ってしまうと,調書のメリットはおそらくこれくらいです。



調書のデメリット


これに対し,調書のデメリットは少なくありません。


調書というものは,例え取調べの内容を記載したものだとはいっても,作成しているのは警察官や検察官です。供述した人が言ったことがそのまま記載されるわけではありません。


そのため,作成者の主観や評価が入り込む余地が十分にあります。その結果,供述者が意図していたものとは全然違う文脈で調書が作成されてしまうことは,多分にあり得ます。


また,今回の証拠偽造事件が示すとおり,警察官や検察官がその気になれば,いくらでも自分たちの好きなように調書を作成することが可能になってしまうのです。


もちろん,そのようなことを防ぐため,調書には供述者本人の署名・押印が必要とされます。しかし,署名や押印を強制される場合もあり得ますし,内容によっては,わざと素人では分かりにくいような文章が作成されたため,意図する内容では無いと気付かずに署名押印してしまうような場合もあり得ます。


いったん署名押印し,調書として成立すると,当然,裁判でも有力な証拠として採用される可能性があるということになります。


特に,検察官調書は,弁護人側が証拠とすることに同意しない場合でも,被告人が署名・押印したということだけで証拠として採用されてしまい,しかも,有罪判決の主要な証拠として使われてしまします(安易に採用してしまう裁判所も問題なのでしょうが・・・)。


刑事訴訟法では,このような調書類は「伝聞証拠」と呼ばれ,証拠とすることに対して厳しい規制が設けられているのですが,実際の刑事訴訟では,調書はほとんどの場合に証拠として採用されているというのが実情です。


自白調書については,自己に不利益な供述をしたのだから信用性が高いということで,伝聞証拠の規制は緩められ,原則として証拠として採用されてしまいます。


この自白調書の信用性を争うのはかなり大変なことです。つまり,自白調書の内容に信用性があるものとして,その内容に沿った判決がくださてしまうおそれがあるのです。


実務では,このように調書というものが,とてつもなく重要な証拠として取り扱われています。そのため,警察や検察などの捜査機関は,この調書,特に自白調書を作成することに多くの労力が割かれることになります。


その結果,自白をとるということは捜査機関側では1つの名誉とされ,多くの自白をとる人は「ワリ屋」などと呼ばれて尊敬を集めるそうです(前田検事も「ワリ屋」だったそうですね。)。


しかし,自白を偏重するというのは実は危険なことです。自白をとるために,強要,脅迫,偽計などによる取調べが行われる可能性があるからです。ひいては,虚偽の自白が誘発され,裁判で真実が明らかにされなくなってしまう,つまり冤罪を生み出すというおそれがあるのです。



調書の功罪


調書は,確かに裁判の迅速化に資する面はあります。しかし,調書を信用し過ぎると,上記のような弊害も多く生じるのです。


被告人が真意で自白しているような事件であれば,調書というのは有用な面があるでしょう、しかし,被告人が犯罪事実そのもの,つまり無罪を争っているような場合には,やはり,刑事訴訟法の原則にもどって,調書ではなく,弁護人からの反対尋問が行われる訴訟上での尋問・質問を原則とすべきなのではないかと思います。

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